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Update

中国語がほとんど話せなかった時に日本語が全く話せない中国人女性とデートした話[前編]

今回は今から少しだけ遡ること1年くらいに前にあった話をしようと思う。内容はタイトルに書いてあるよう僕が1人の中国人女性とデートした話である。

そもそも何でこんな事を書こうと思ったかって話だが、知っている人はご存知の通り僕のブログはマニュアル的な記事がそのほとんどを占めている。

そんな中、最近は少しずつ自分の考えを含めた考察的な記事も増やしていて、ブログ上で色々な自分を出して読んでくれている人に自分をどんどん知ってもらえたら良いなと思ったからだ。

また今回はいつもの常体・敬体・話し言葉を混ぜたスタイルではなく常体で淡々と書いてみようと思ってる。興味がある人はどうぞご覧あれ。

彼女との出会い

夜の台北

僕は今年(2015年)の2月から台北で生活を始めたわけだが、その生活を本格的に始める前に台北へ旅行を兼ねて生活の準備をしに来ていた。

心配症な性格のため、予定していることが全て滞り無く進むかどうかという不安を背負いながら、成田空港からLCCに乗り込み夜の台北に到着。予約したホテルに辿り着いた頃には既に夜の19時を回り台北は暗闇に包まれていた。

この旅ではお金を節約するために主にホステルという宿泊施設を活用した。1室にベッドが複数あるドミトリールームを擁する場所で部屋の中の自分のベッド上だけが自分のスペースである。その他の浴室やトイレなどは共同で使うタイプの宿泊施設だ。

台北到着1日目は飯食って寝るだけというスケジュールだったが、慣れない環境に満足に睡眠を取ることが出来なかった。

台北滞在2日目を迎える。せっかくの海外なので1日遊びたいところだが台湾生活の下地づくりをしなくてはならない。具体的に言うと銀行口座を開設しに行ったり携帯を契約しに行ったりしたのだが、結果として両方ともうまくいかなかった。

肩を落としながらホステルに戻り、自分のベッドのある部屋に繋がる共用スペースへ行くと、昨夜は見なかった顔のこれからシャワーを浴びる装いをした同じホステルに泊まっているであろう女性が前方から歩いてくる。

その女性と目が合う。そして僕の後ろに位置するシャワー室に向かって真っ直ぐ進んできたので僕はその女性に向けて「Hello」と挨拶した。

海外の宿泊施設で出会う人は基本的にどこの国の人か分からないので、僕はホステルに宿泊している間に新しい人に出会ったら必ず英語で挨拶するようにしていた。

「你好」

彼女は薄く微笑みながら綺麗な中国語で挨拶を返してきた。何人かは分からないけど発音と顔立ちからして中国語圏のアジア人ということだけは分かった。

そんな彼女を横目に、自分のベッドスペースがある部屋に入り荷物を整理し、その日はもう出掛ける予定がなかったので自分もシャワーを浴びる準備をする。

すると部屋の扉が開く音がしたので目をやると、さっき挨拶をした彼女の姿がある。同じ部屋だったのだ。

「あ~同じ部屋だったのね!」みたいなことを互いに言った後、彼女が早口の中国語で僕に質問した。

僕が「(中国語が)分からない」という素振りをすると、「じゃあ英語は?」と聞かれて、「少しだけ…」と答えると、「あなた駄目ね~。」みたいなことを呆れたように言われた。

この後なんとかコミュニケーションを取って彼女が中国人ということだけは分かったが、正直この時の彼女へのイメージはこの件と中国人(という日本人的な先入観)ということもあり、なかなかに最悪だった。

その夜は「これから夜市に行く」という彼女を見送ってシャワーを浴びた後、自分の言語能力の不甲斐なさにクソっと思いながら、冬なのに冷房がよく効いた部屋の自分のベッドスペースで寝た。

朝ごはんを一緒に食べる

牛肉麺

翌日の朝起きて出発の身支度を整えようとベッドからのそのそと出ると、昨晩出会った中国人の彼女のベッドスペースのカーテンが同じタイミングで開き、自分と同じように彼女がゆっくり這い出てきた。

僕はその彼女に対して少しそっけなく「おはよう」と言ってさっさとシャワーを浴びにいく。

シャワーを浴びて帰ってくると彼女は化粧道具を準備していて、大きな鏡のある共用スペースへ化粧をしに行くタイミングだった。

僕は彼女が化粧をしている間部屋でゆっくりと身支度を整えていた。すると「さーて出発するか」というタイミングで彼女が化粧から帰ってきた。

「あれまだ居たんだ?」みたいな事を言われて「朝ごはん食べた?」とかそういう会話をする中で、何気なく一言「一緒に朝ごはん食べに行く?」と聞いてみた。

これに対し予想外に「行っちゃう?!」みたいな感じで元気な返事が返ってくる。

そうと決まれば早速ということで、2人で外を歩きつつ今更の自己紹介をしながら朝ごはんを食べる場所を探し、泊まっているホステルの近くにあった適当なお店に入る。

聞けば彼女は韓国で中国語を教える先生をしていて、今回は休暇を取ってひとりで台湾に旅行しにきたという。

適当なお店に入った後、朝から牛肉麺に大量の辣椒(辛いタレみたいなもの)を入れて豪快に食べる彼女を眺めながら、慣れない環境での宿泊であんまり食欲が無かった僕は花蛋湯という中華の卵スープを飲んでいた。

彼女が勢いよく食べた反動で飛び跳ねた牛肉麺のスープが彼女の前髪に付着していたのでティッシュで拭ったりした。

彼女は「ふふ、ありがとう」と恥ずかしそうにお礼を言い、その後彼女の住む韓国の様子を動画で僕に見せる。

動画内にはしゃぐ彼女が登場する。彼女はスマホの画面と僕の顔と交互に見ながら「コレはコレでね…」と楽しそうに説明してくれた。

僕は僕で、近づいてきた彼女の顔にぼってりしたラインの引かれた眉毛を見て「化粧荒いな…」とか思っていた。

食事が終わった後、僕は午後から予定があったので分かれることにした。

今日は猫空に行ってみる! と意気込む彼女を「多分カップルばっかりで肩身が狭いと思うけど、一緒に行ってあげられなくてゴメンね。」なんて茶化しながら見送って分かれた。

彼女の「おかえり」

夜の台湾師範大学

その日は予定を終えて23時くらいにホステルに帰ってきた。既に就寝している客もいて部屋の照明は落ちている。

部屋に入りベッドの方に視線をやると、彼女が荷物を整理しながら僕を見ていて、寝ている他の客に気を遣いながら小さい声で「今日は楽しかった?」と笑顔で聞いてきて、それがやけに印象的で可愛く脳裏に焼き付いたのを覚えている。

その後は互いにシャワーを浴び、自分のベッドスペースに戻ってきた後、彼女とベッド越しに会話をする。朝ごはんを一緒に食べたことを通して2人の関係の変化を感じた。

ちなみに2人の言語能力はというと、彼女は日本が喋れず母国語である中国語以外は英語が日常会話程度で、僕は英単語をちょっと知ってるくらいで中国語は幼児レベル。

かろうじて共通言語と言える中国語を使った「今日は楽しかった?」「今日どこ行った?」「何食べた?」とか僕のレベルに合わせた簡単な質問に僕が答えていくだけのごく単純なやりとりをした。このあたりは流石の先生である。

この時から、台北にいる間は台北に住む友人と約束が毎日あったにも関わらず、その時間さえ惜しくなるくらい彼女との寝る前のたった数十分のやりとりが一番の楽しみになっていた。

「再見」の使い方

北投

次の日の朝を迎える。昨晩した会話の内容で、2人がホステルを発つ日は同じだが彼女と会えるのは出発日前日の今日が最後だということは事前に分かっていた。

「今夜あの子はクラブでも行って朝まで帰ってこないんかなー」なんてことを歯を磨きながら寝起きのハッキリしない頭で考える。

2人ともいつも他の客が既に出発した後に起きるくらい気ままな旅をしていたので、歯磨きを終えゆっくり身支度をしていると、やがて彼女と2人きりの時間がやってきていつものように話をする。すると彼女からLINEを聞かれる。

彼女の住んでいる韓国ではほぼ全てのユーザーがカカオトークを利用している(しかも母国の中国はWeChatしか使えない)関係で、彼女はLINEをインストールしたことが無かった。けど仕方ないから僕のために入れたと彼女は言う。

僕のIDを教え、それを検索して無事僕を追加する。彼女は「最初の友人だ~」と無邪気に笑っていた。

その後更に「今日も一緒に朝ごはんを食べに行く?」という彼女からの提案があった。

思わぬ彼女からの誘いに内心はとても嬉しかったけど、この日も別の友人との約束があったので断った。会えるのは今この瞬間が最後かもしれないということが分かっていたので、とても寂しい気持ちになった。

僕が部屋を出る時、彼女から「再見(さよなら)」と言われたことで、もう会う事は無いんだなっていうのを更に実感する。

この日は友人と遊んでいる間も頭の片隅にはぼんやりと彼女の顔があって心は常にどこか上の空だった。

友人もそんな僕の様子をちょっと不思議に思っていたようだが、自分の中国語はまだ流暢じゃないことを理由にそれとなく誤魔化していた。この時遊んでいた友人には本当に申し訳無いことをしたと思う。

彼女が帰ってこないホステルに戻る

台北のホステル

友人と別れた後、ホステルへの帰路で、明日の朝には絶対に戻ってくるであろう彼女へ、最後の贈り物でもしようかなとぼんやり考えていた。

ホステルに戻り部屋にいつも通り静かに入る。すっかり慣れたもんで3日も住めばこの窮屈な場所にもなんだか愛着が湧いてくる。

自分のベッドスペースに目をやると、今朝出た時とベッドのカーテンの位置が微妙に違う(神経質)ことに気付いた。

「まさか…」と思い仕切りのカーテンを勢いよく開くと、枕元に彼女から僕宛のプレゼントで手紙とポストカードが置いてあった。

ベッド脇に洗って干してあったパンツを見られたと思うと恥ずかしかったが、彼女も自分と同じことを考えていたことの嬉しさの方が上回った。

僕もお返しに台湾人の友人へのお土産用に買った物を一部彼女へのプレゼントに下ろし、手紙を添えて彼女のベッドスペースの枕元に置く。そしてシャワーを浴びに部屋を出た。

シャワーを浴びていた時間は20分程度だろうか。蒸気で薄く白くなった眼鏡を装着して、部屋に戻るともう会えないと思っていたはずの彼女が帰って来ていた。互いに顔を見合わせて「なんだまだ居るじゃん!」って2人で笑い合った。

プレゼントを先走って渡してしまったのが少し恥ずかしかったけど、再び会えたことが純粋に嬉しかった。

今日は2人が会える最後の夜。だから…

台北の夕暮れ

その後は、いつも通り中国語で今日1日を振り返る簡単なやりとりをした。やはり中国語の先生だけあってとっても分かりやすく聞いてくれる。(こちらの声調や発音が間違えていたら指摘してくれる語学学校的なサービス付き。笑)

会話の途中で彼女が「明日でお別れだね」とぽつりと言った。

分かっている事だけど、改めて言われるとどうしようもない寂しさが込み上げてくる。その気持ちをどうにか伝えたくて僕はひとつの提案をした。

「明日の朝に僕はここを発つ。今夜が2人がこの場所に一緒にいる最後の夜だ。だから今日の夜は一緒のベッドで寝よう。」

彼女は僕の言った拙い中国語をすぐには理解出来ず、僕は激しく動揺しながらも追加でLINEも送って文字で補足した。

意味を理解した彼女は「えぇ~~~~~~~~~~!!!んんん!!!!」という日本人だったら絶対にしないだろうなぁという、いまだかつて見たことも聞いたことも無いリアクションを取った。

僕はその新鮮な悲鳴を聞いて提案をほぼ受け入れてくれたのだと思い、「今日は平日で他の客もほとんど居ない」「僕細いから同じベッドで寝ても負担にならないよ」などの、先程自分が口から出た言葉を照れ隠ししながらダメ押しをした。

彼女は僕の突然の提案にしばらく動揺していたが、ひと呼吸置いてこう答えた。

「…私はこの旅行が終わったら韓国へ帰る。一夜限りの恋人は必要ない。」

僕はその彼女の恋愛観をはっきり物語っているような回答を聞いて「OK、分かった」と返事を告げる。

それまでの楽しげな空気から一転、2人の間に重い沈黙が続く。

数分後、彼女は強く断りすぎたと感じたのか「ごめんね」と僕のベッドまで謝りにきた。それを聞いて僕は「君は当然のことを言ったまでで全然悪くない。謝る必要はないよ。」と伝えた。

僕はその言葉を発したっきり力を失い、そのやりとりをしていた時のそのままの格好で、風邪を引いて薬を飲んだ時のようにその夜は早々に眠りに落ちた。

別れの朝

台北駅のバスターミナル

セットしておいた目覚ましが鳴る朝の5時。他の客人は皆寝入っている。昨晩の落ち込んだ気持ちを引きずったままだが、今日はこの部屋を出なくてはならない。

部屋を出る準備は着々と進み、シャワーを浴び荷物をまとめる。そして後は部屋を出るだけとなった。

少し迷ったけど、このまま何も言わずに離れるのも失礼な気がしたので、荷物を部屋の外に置いた後、再び静かに部屋に入り彼女のベッドのところまで行って、寝ている彼女の肩に少し触れながら彼女の名前を呼んだ。

暗闇の中だったので顔は確認できなかったが、彼女は僕に意識を向けた後「…バイバイ。」と掠れた声を発し、僕の手を手探りで探し当てそっと握る。

僕はその手を握り返し、日本語で「またね。ありがとう。」と言って、いつもそうしていたように部屋の扉をゆっくり開け、音を立てないように閉めて次の目的地へ向かった。

次回は後編「待ち合わせはソウルで」

以上が前編。お互いの生まれた場所も出会った場所も住む場所もバラバラ。そう簡単に会う機会はやってこない。

タイトルにデートをしたと書いておきながらまだまともなデートはしていない。そんな2人の次の展開は後編で。

ナカジマチカ

ナカジマチカ / nakazimachica

神奈川県出身。日本で会社員として約7年間働いた後に独立し、中国語を学ぶための台湾語学留学を経てそのまま台湾移住。現在は台中市を拠点にWebコンテンツ制作のフリーランスとして生活中。

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