ども台湾在住のナカジマチカ(@nakazimachica)です。
先日高雄に滞在した際、かつて日本軍の宿舎だった建物をリノベーションした民宿に泊まってきました。
今回はその高雄にある民宿「眷待期休憩所」を紹介したいと思います。それではご覧ください。
目次
眷待期休憩所とは?
眷待期休憩所は高雄の黃埔新村という眷村にある民宿です。
眷村とは台湾で戦後に中国大陸からやってきた軍人及びその家族が暮らす家屋が密集した地区のことを指します。黃埔新村は台湾で初めての眷村とも言われています。
当時の眷村に住んでいた人々の住居は主に
- 戦後に急造されたもの
- 日本統治時代の建築物を利用したもの
この2パターンがあり、黃埔新村は後者にあたります。
現在の黃埔新村は眷村の高層ビル化、その他様々な理由で元々住んでいた人達は離れていますが、『以住代護』と呼ばれる眷村文化の保存及び活性化などを目的としたプロジェクトの下、オフィスやアトリエ、民宿等が並ぶエリアに生まれ変わっています。
つまり眷待期休憩所はただの民宿ではなく日本軍の宿舎、国民党関係者の住居、そして現在の民宿と台湾における歴史の変遷をたどってきた建築物でもあります。
眷待期休憩所の場所・アクセス方法
眷待期休憩所は高雄MRTの大東駅から徒歩13分、自転車6分でアクセスでき、陸軍軍官学校のすぐ横に位置しています。
眷待期休憩所の紹介
冒頭でも少し触れましたが黃埔新村は眷村文化の保存と活性化を目的としたプロジェクトが進行中で、オーナーさんがこちらで民宿を始める前に出ていたそのプロジェクトの募集要項が黃埔新村に残る建物をリノベーションし民宿の経営をすることだったそうです。
オーナーは樂樂さん・俊瑜さんの男女で、おふたりは民宿経営は全くの未経験だったもののそこへ応募し、見事審査に通りました。そしてリノベーション工事に1年かけて眷待期休憩所をオープンしたそうです。
眷待期休憩所の入口。親しみのある民宿のロゴが横に掛けられた赤い大門とエメラルドグリーンの扉の組み合わせが可愛いです。
眷待期休憩所の宿泊客が出入り可能な建物は母屋と離れの2つがあります。まずは受付や共有スペースのある母屋の紹介から。
入ってすぐ目を奪われるのがひとつひとつのアイテムにこだわりが詰まっていそうな共有スペース。
その隣の空間は畳張り。脚付きテレビは外側は懐かしいデザインですが中身だけは現代仕様です。
ふすまの仕切り上部には日本統治時代に建てられた時の欄間が形を残しています。
眷待期休憩所の共有スペースは外部の撮影にもしばしば使われているようで、自分が泊まった3泊4日だけでも古着屋の撮影、ウエディングフォトの撮影と様々な方が眷待期休憩所を撮影スタジオとして利用しているのを見かけました。
こちらは受付です。後ろにある状態の良いアンティーク蓄音機の存在感。
興味深い小物や書籍が並ぶ本棚。
古そうな振り子時計。時々止まっていたのでゼンマイ式なんでしょうね。
照明スイッチのデザインひとつとっても部屋との調和を考慮した妥協を許さない姿勢が見えます。
こちらは押入れだったスペースをアンティークのディスプレイ棚に活用しているようです。スーパーファミコン本体とカセットを中心としたレトロ玩具などが並べられています。
至るところに置かれた懐かしいテレビゲームはオーナーのひとり俊瑜さんの趣味だそうです。
こちらのファミコンは実際に遊べるよう入出力の切り替えも容易になっていますが、ただのインテリアとしても充分な役割を担っています。
ご覧のように眷待期休憩所には希少価値のありそうな年代ものが惜しげなくレイアウトされています。
ひとつピックアップしてみると、写真の貯金箱は1989年に政府が本格的にゴミの分別の改善に取り組み、路上に全く同じ形状をしたゴミ箱を設置した際に記念品として発売されたものだそうです。
ただこのゴミ政策は問題が出てしまい1993年にはゴミ箱自体も台湾の街から姿を消すことになります。それに伴いこの貯金箱の販売も終了してしまったそうです。今となってはレアものですね。
民宿内に並べられている物はオーナーさんの私物も多く、気になったものについて尋ねると、時間があればそのモノ自体に宿るストーリーなどを丁寧に説明していただけます。
オーナーのおふたりは元々アンティークを集めるのが趣味で自宅に収まりきらなくなった物をこちらの民宿に置くようになったらしく、結果民宿のインテリアは自然と今の台湾と日本のレトロデザインが融合したような雰囲気を形成していったんだとか。
ただ客が利用する設備に関しては、各々が快適に過ごせるように最新機器もしっかり導入されているのでご安心ください。こちらは台湾の宿泊施設では定番の無料で使用できるウォーターサーバー。温水・常温水・冷水が出ます。
続いて客室のある離れに向かいます。その前に少し庭の様子を。こちらは鉄製バケツをモチーフにした玄関先の飾り。
とても綺麗に整備されています。
遊び心を忘れない庭のアクセントくん。
眷待期休憩所の客室は合計3つ。先程紹介した母屋に1つ、離れに2つあります。こちらは離れの外観です。
離れは日本統治時代に建てられたものではなく、終戦後ここに住んでいた方が、家族が増えた時に増築したものだそうです。
離れの前に置いてある自転車は滞在期間中いつでも無料で使用することができます。
僕は近隣を散策する時や、高雄MRTの鳳山駅まで自転車で行き、駅周辺にある無料の駐輪場に自転車を停めて、宿と駅を往復する用に使用していました。
あと、眷待期休憩所の近くにはYouBikeステーションもあるので、YouBikeに乗って同じくYouBikeステーションが目の前にある高雄MRT大東駅まで行くと、最速で宿とMRT駅間を移動できます。
離れのすぐ近くには大きな共用のゴミ箱が設置されていてこちらも自由に利用できます。部屋にもゴミ箱はありますが、外から帰ってきてゴミを持っていた時など部屋へ入る前に処理するのに便利でした。
離れの玄関にあたるスペース。抜かりがない見事なバランス感覚。
今回宿泊するお部屋『左鄰』の扉。入室の際は外履きから室内用のスリッパに履き替える必要があります。
客室の中へ入りました。離れにある客室は2部屋ともシングルベッドが2つ置かれたツインルームになっています。
床には石とコンクリートを混ぜて作られた素材を使用しています。
この床を台湾では『磨石子地板』と呼び、50,60年代の台湾に建てられた住居によく見られるそうです。ただ近年は磨石子地板を作ることができる職人さんが減ってしまい、このタイプの床を採用することは少なくなっているそうです。
窓は模様入りのすりガラスなっています。カーテンはもちろんありますが、日光を採り込みたい時レースカーテンがなくてもある程度のプライバシーが保たれます。
シングルベッド2つの間に設置されている机の上にはSONYのラジカセと黒電話、そしてGoogleのスマートスピーカーが配置。
個人的にスマートスピーカー初体験だったのですが、ベッドに入った状態で部屋の照明を落とす時など非常に便利でした。
台湾のスポーツ飲料舒跑とのコラボ壁掛け時計?
ベッドの寝具の柄のセレクトが可愛い。
古い建物だとちょっと心配なのが電源の位置や数ですが、しっかり調整されていてベッドボードには3つのプラグ差込口があります。
部屋の隅に置かれているラックに置かれているのはアルコール消毒液、耳栓、蚊取りマット。
すぐ下にあるフックがバッグや上着、マスクなどを掛けるのに便利でした。
これはチェックイン時に渡される鍵で、左から客室、離れの玄関、母屋の玄関、大門の鍵です。
4つもあるとどの鍵がどの門・扉に対応しているか忘れてしまいそうですが、大門用の黒い鍵を除き、扉の色とキーホルダーが連動していることを覚えておけば大丈夫です。宿に門限はないのでどの建物も出入りは自由です。
その下には眷待期休憩所のロゴが入ったバスタオルとフェイスタオル。下の棚にはドライヤーが収納されています。
客室の各所にある優しい雰囲気のイラスト付き案内はオーナーのひとり樂樂さんのデザインだそうです。
様々な背景や文化、習慣を持った人が利用する宿泊施設だからこそ、デザインによる解決が求められる場面があると思いますが、経営者がグラフィックデザイナーなのは強みですねぇ。
次は水回りを見ていきます。寝室とは壁を隔てた場所にあり、小さな窓もあるので湿気がこもりにくいのが良かったです。
シャワーには肌への刺激が柔らかいシャワーヘッドが採用されています。
洗面台。上にある丸鏡は非常に大きくて使いやすい。
ちなみに眷待期休憩所では宿泊の際に便利なものが提供されていますが、歯ブラシと歯磨き粉に関しては提供されていないので持参する必要があります。
こちらはトイレ側の様子。シャンプーとボディーソープがあります。
離れにあるもうひとつの客室『右鄰』はこんな感じ。このお部屋も素敵なんですが、僕はPCをいじりたかったので机がある『左鄰』を選びました。
眷待期休憩所の懸念点
最寄りMRT駅との距離
眷待期休憩所は最寄りの高雄MRT駅からは徒歩約13分と若干離れているので、宿を拠点に時間を効率よく使って色々な所へ行きたいという方には不向きかもしれません。
ただ最寄り駅と眷待期休憩所の近くにはYoubikeステーションもありますし眷待期休憩所も無料で自転車を貸してくれるので、時間をゆっくり使える、高雄旅行に慣れている方ならそこまで問題ないと思います。
古い建物を利用しているため注意点がある
建物はしっかりリノベーションされていますが、ベースが古い建物なので注意点がいくつかあります。
- 部屋の仕切りの高さは全体的に低めで、自分は場所によっては頭をぶつけることがあった。
- 構造上、バスルームの防水を完璧にするのが難しく、シャワーを浴びる時は気をつけないと廊下側に水が溢れる可能性がある。
などなど。ただこれらはこの民宿の味といえば味でもあるので、隅から隅まで快適に過ごしたいというわけではなければそこまで気にならないかと思います。
最後に
以上、高雄にある日本統治時代から残る建築物を、オーナーさんの感性で素敵に活用されている民宿「眷待期休憩所」の紹介でした。
この民宿の存在を知った時は「台湾に残る日本の古建築(を民宿にリノベした施設)に泊まれるのか。おもしろそう。」くらいの気持ちだったのですが、宿泊した際にネット上では知ることができない民宿に関するエピソードをオーナーさんから伺ったり、その細部まで丁寧に作り込まれた空間を目の当たりにしたことで、認識を改めることになりました。
また、途中で触れましたが、オーナーのおふたりは民宿経営初挑戦ながら、オーナーのひとり樂樂さんがデザイナーであることがおそらく民宿を運営する姿勢に強く反映されていて、いち利用客としてはただ民宿自体が写真映えするだけではなく、客がどう民宿を利用するかについてよく考えられていることが伝わり、気持ち良く過ごすことができました。
あと、僕が眷待期休憩所を知るきっかけになったtamazoさん(@tamazo919build2)の眷待期休憩所の宿泊記事も是非あわせてご覧ください。記事を拝見すると、僕が訪れた時とは各部屋の様子が結構変わっており、オーナーさん達が試行錯誤されているのが見て取れます。今後の変化も楽しみな民宿です。
施設情報
眷待期休憩所
高雄市鳳山區東三巷102號地図(Googleマップ)で見る
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ナカジマチカ / nakazimachica
神奈川県出身。日本で会社員として約7年間働いた後に独立し、中国語を学ぶための台湾語学留学を経てそのまま台湾移住。現在は台中市を拠点にWebコンテンツ制作の個人事業主として生活中。